研究方針

ナマズの行動と刺激要素との関係に関する研究の必要性について

 ナマズに関する研究ではHATAI et al. (1932)の地電流測定を除き,東京都水産試験場(東京都防災会議地震部会,1980-1992),神奈川県淡水魚増殖試験場(1983-1987)は, ナマズの行動を定量化し有感地震との対比を試みた解析であり,刺激要素までは言及していない.ASANO andHANYU(1986,1987a.b.c)がナマズの電気受容器に関する研究を進めたことにより,近年注目されている地震に関係する可能性がある電磁気現象がナマズの異常行動を引き起こすとして注目され始めた.しかし,HATAI and ABE(1932)や今村(1931),TERADA(1932a) が電気的な要素以外に可能性を指摘した振動や水質,棲息環境における餌など微生物の変化(2次的刺激要因)に対しては,存在を否定した研究はなく,解明しなければならない課題である.この様な背景から,自然環境下におけるナマズの周囲に存在する様々な物理・化学的な刺激要素の変化を観測し,それら様々な要素がナマズに刺激を与えている構造を解明することが必要であろうと考えられた.

本研究の方針

 まず最初に,ナマズを供試魚と選定した理由をまとめる.日本にはナマズ(Parasilurus asotus),ビワコオオナマズ(Silurusbiwaensis),イワトコナマズ(Silurus lithophilus)の3種類が棲息している(※2002年時点).ナマズは本州・四国・九州に広く分布し,ビワコオオナマズ,イワトコナマズは琵琶湖にのみ棲息している(友田,1978).そのことから,ナマズの異常報告があった地震のほとんどはナマズの棲息域内で発生していると考えられ,ナマズを選定し観察することによりナマズの異常行動の過去の事例を検証できると期待された.また,東京都水産試験場(東京都防災会議地震部会,1980-1992)やHATAI andABE(1932),HATAI et al.(1932),ABE(1935),KOKUBO(1934),ASANO andHANYU(1986,1987a,b,c)はナマズを供試魚として選定しており,それらの研究成果を参考にすることが可能である.さらにナマズは自然の棲息場所で簡単に見ることができ,室内での飼育も比較的簡単で病気の治療方法なども養殖の技術(田崎・金沢,2001)などである程度確立している.稚魚から成魚にいたる生態が研究され(内橋,1953;宮地ほか,1963),寿命は10~15年とも言われ測定期間に耐えうると判断された.
 現時点においては同一地点かつ同時にナマズの行動観察と刺激要素の観測を行い比較した研究は見当たらない.本研究は大きく3つの研究分野に分けられる.第一はナマズの行動の連続的な観察と電磁気変化を始めとする各種刺激要素の観測,およびこれらの関係に関する研究である.第二は各種刺激要素に対するナマズの反応に関する実験,第三は電磁気変化を含めた各種刺激要素と地震との関係に関する研究である.本研究では,再現性のある実証的な観察・観測を追求する.そのためには行動生物学などの生物学分野の認識や研究方法を十分に踏まえる必要があり,各種専門家の学際的アドバイスが必要不可欠である.さらに,力武(1998)は宏観異常現象の研究が病的科学として扱われることを指摘している.本研究では先入観や希望的観測などにとらわれず,病的科学に陥らないことに十分配慮する.


実証的な研究方法の立案

 我々は「ナマズの行動の連続的な観察と各種刺激要素との関係を探る」ことを第1目標とした.自然環境下でのナマズの飼育・観察・定量化が非現実的であることから,まず実験室内にナマズの飼育設備・行動の定量的観測システムを設けた.同時に,飼育場所に最も近い距離における物理・化学的刺激要素となりうる観測データの収集を始めた.様々な刺激要素が複合的にナマズに刺激をあたえるだろうとは推測されるが,本研究ではさしあたり, できる限り単純に個々の刺激要素とナマズの行動との関係を解析して行くことにした.

 我々の研究構成は下記の通りである.
 (1) ナマズに関する既往資料の調査
 (2) ナマズの飼育環境の整備
 (3) ナマズの行動の観察と定量化システムの考案と構築
 (4) ナマズの刺激要素となりうる物理・化学的要素の観測およびデータ入手
 (5) ナマズの行動と刺激要素との対比方法の考案と実施