SEREX: Seismo Electromagnetic Research EXperiment

「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォーム第2期利用に向けた候補ミッション提案

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「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォーム第2期利用に向けた候補ミッションとして、地震電磁気観測実験:SEREX(Seismo Electromagnetic Research EXperiment)は、とても期待出来るものと考えます。本ミッションは、地震火山国として、長期にわたり観測できる「きぼう」の環境を利用し、世界に広く貢献できるものと考えます。JAXAの将来ミッションとしての実現性とその効果が、幅広く検討されることを期待しています。
宇宙飛行士
山崎 直子
本文中にハイパーリンクが多数あるので、御面倒ですがインターネット接続環境での閲覧を強く推奨します。
御質問があれば鴨川・児玉までメールを頂ければ適時回答いたします。

1. 一般

(1) ミッション名
 地震電磁気観測実験:SEREX(Seismo Electromagnetic Research EXperiment)
(2) 組織名
 電気学会電磁界理論技術委員会自然災害の予測と監視のための電磁界技術調査委員会(委員長:千葉大学服部克巳助教授)にSEREXワーキンググループを編成予定
(3) 代表研究者名
 鴨川 仁(東京学芸大学物理学科)
(4) 担当者(問い合わせ窓口)氏名
 児玉哲哉(JAXA宇宙利用推進本部)
(5) ポート占有利用/ポート共有利用の区分
 共用

2. ミッション 募集分野 (a) 世界をリードする先端的な科学研究の実施

(1) ミッションの目的、意義
 SEREXの目的は、地震に伴う電磁気現象の観測を行い、地震「前兆」電磁気現象の立証を行うことにある。
 1980年代より大地震の前に大気圏や電離圏が擾乱する可能性が報告がなされている。しかし、中程度の地震でさえほぼ同一箇所で起こるにはかなりの年数が必要とされるため、地震との関連性を統計的に確実にするには地上観測では百年単位の時間が必要である。これを強固に示すには困難が伴い、これらの研究の進展はややゆっくりであった。 だが、未だ因果ははっきりしないものの、近年興味深い関連性を示す結果が報告されている。(Kamogawa, 2006及び長尾ら、2006を参照)

 1994年、宇宙開発事業団(当時)の諮問委員会である地球環境観測委員会固体地球サイエンスチーム地球電磁場ミッション調査サブグループにおいて、地球電磁環境観測を目的とした小型衛星計画の提案(宇宙開発事業団特別報告NASDA-SPP-950002)が行われた。1995年の阪神・淡路大震災を契機として、電磁気学的アプローチによる短期地震予知研究を目的としたSEMS(Seismo ElectroMagnetic Signals)研究会が設立され、翌年から旧科学技術庁の主導による地震総合フロンティア研究が開始され、理化学研究所宇宙開発事業団で地震電磁気現象の研究が実施された。これと平行し、国際科学技術センター(ISTC)委託研究ISTC-417R:宇宙からの地震電磁気モニターを実施し、技術資料の取得を行った。その後、各国で研究活動が活発化し、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)に、地震・火山噴火に伴う電磁現象国際委員会(EMSEV)が設立され、地殻-大気圏-電離圏カップリング(LAI coupling)の解明に向けた研究が世界的に進展中である。

 2003年より宇宙開発事業団と宇宙科学研究所の協力により、地震に伴う電離圏擾乱の検証を目的としたひのとりのデータの解析を実施しており、マグニチュード6.5以上の大きな地震の数日前より電子温度が低下する現象を発見している。(参考
 しかしながらひのとりは、常時電離圏のプラズマデータを取得していたわけではなく、地震前兆電離圏擾乱の決定的な結論を導き出すことは困難であり、将来の小型衛星のプロジェクト化を目的とした「地球電磁環境モニター衛星(ELMOS)ワーキンググループ」の設置が、2006年11月22日の第12回宇宙理学委員会で承認された。
 マグニチュード7~8級の巨大地震は年間10~20回程度発生しており、これが世界各国で衛星観測が実施・提案されている大きな理由となっている。


Earthquake Alarm (IEEE Spectrum, 2005)

 衛星以外にグローバルな観測を可能とするのは宇宙ステーションであり、通常の低軌道観測衛星には大気抵抗が過大なため長期運用が困難な低軌道(<400km)からの観測は魅力的である。特により高い軌道の衛星との同期観測により、地震電磁気の伝播メカニズムの解明が期待できる。
 旧ソ連ではサリュート及びミールにおいて、本分野の観測が行われてきた。それらの成果に基づき、1999年の宇宙ステーション利用計画ワークショップや2003年の国際宇宙飛行士会議において、ロシア宇宙科学アカデミー総裁であるウラジミール・ウトキン博士セルゲイ・アウデエフ宇宙飛行士らによって、日本に対し地震電磁気観測ミッションへの協力提案がなされてきた。
 この研究に着目したイタリアは、2005年に宇宙ステーションにLAZIO-SiRad、2006年にはロシアの地球観測衛星Resurs-DK1に搭載したArinaというエネルギー粒子観測装置による地震に伴う放射線変動を観測する試みが進行中であり、JAXA長期ビジョンおける「ヨーロッパの地震大国イタリアが、宇宙から地震に関する情報を取得するための作業を、ぜひ日本と一緒にやりたいとのことで合意を得ました。災害対策の問題は、各国ともかなり高い関心を持っています。国際協調で対応することが十分可能な分野なので、むしろ喫緊の課題かもしれません。」との理事長コメントも記憶に新しい。ロシアも昨年、VSPLESK EXPERIMENTという類似の機器(むしろこちらが本家というべきであろう)を搭載している。

 しかしながらJAXAにおいて、これらのミッションに対する協力はおろか、ミッション実現性に対する組織的検討すら全く行われていないのが実態である。
 そこでSEREXミッションでは、まず過去及び現在進行中の宇宙ステーションからの地震電磁気観測結果のレビューを行い、その実現可能性を見定めた上で、きぼう暴露部搭載に向けた観測システムの検討を行う。(地震に関してネガティブなレビュー結果となっても、宇宙環境利用における電離圏の新たな知見が得られる可能性がある)
 少なくともSEREX搭載以前に、本ミッションの実現可能性について検討しておくことは、地震火山国の宇宙機関としての責務であると考える。
中国は国家863計画の一環として地震電磁気観測衛星の開発に邁進しており、昨年、国家航天の羅格副局長が2011年からの国家五ヵ年計画中に衛星を打上げると発言している。(Spacedaily, July 28, 2006)
2007年1月、中国地震局は過去及び現在観測中の衛星データのレビューを目的に、中国地震電磁試験衛星のデータ処理・応用予備研究に関する公募を発出した。
 現時点において、地震前兆電磁気現象に対する国際的(というよりはむしろアメリカの科学コミュニティにおける)合意がなされているわけではない。しかし、そのような合意が形成されてから、二番煎じで実施することは一流の研究開発を目指す組織にふさわしい態度であろうか?
 本ミッションや現在進行中の地震電磁気観測ミッションにより、地震前兆電磁気現象の立証がなされれば、短期地震予知への具体的なシステム構築に向けた一歩を踏み出すことが可能となり、地球科学におけるプレート・テクトニクス出現にも匹敵する大きなパラダイムシフトをもたらすことになるだろう。

(2) ミッション要求
 本ミッションでは、第一段階として過去の研究レビューからスタートするため、以下に過去及び現在、宇宙ステーションや衛星搭載実績のある観測装置を列挙する。無論、これら全てを搭載するわけでなく、SEREXによるレビューと諸外国の進捗状況を踏まえ、最終的なミッション要求が立案される。
  • エネルギー粒子観測装置


    MARIYA-2 onboard MIR (AMS-RELATED PHYSICS WORKSHOP HELD IN TRENTO)

     1985年、旧ソ連の宇宙ステーション・サリュート7号に搭載されたMARIA以降、ミールやINTERCOSMOS-BULGARIA-1300やMETEOR-3などの衛星に搭載され、軌道上で長期間の運用実績がある。
     Galperらのグループは長期間の観測結果から、エネルギー粒子の増加がマグニチュード4以上の地震の2~4時間前に観測されると主張している。(ΔT=地震発生時刻-観測時刻)
    Source: Aleksandrin et al., High-energy charged particle bursts in the near-Earth space as earthquake precursors, Annales Geophysicae (2003) 21: 597–602
         Galper et al., High energy particle flux variations as earthquake predictors, International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences and Geomechanics, Volume 32, Number 8, December 1995


    ロシアの宇宙ステーション利用計画について(Utkin, 1999)

     これらのエネルギー粒子は通常、磁力線に沿って南北に往復運動をしているが、地震の前により低い高度まで降下すると考えられている。(送電線からの電磁波(高周波)が超高層に侵入し、地球磁気圏内の放射線帯電子と相互作用し、その結果として粒子が下部電離層へ降下することは古くより知られている。)



    Magnetospheric Effects of Power Line Radiation (Science 19 May 1978)

    参考:Y.Ando, M.Hayakawa, and O.Molchanov, "Theoretical analysis on the penetration of power line harmonic radiation into the ionosphere," Radio Science, vol.38, doi:10.1029/2001RS002486, 2002.

  • Ionozond

    Equipment "Ionosond" on the external surface of Priroda module.
    The pintles of antenna start to be put forward

     1998年に宇宙ステーション・ミールに搭載されたIonozondは、軌道上から周波数を掃引しつつ短波帯(HF帯)のパルス電波を送信し、その反射波を測定することによって、これまでにない低高度から電離層観測を実施した。(参考:電波環境としての電離圏
     Danilkinらのグループは、地震に伴う電離層不規則構造を検出したとの報告を行っているが、運用期間が短かったため、定量的結果には至ってはいない。

    Прогноз землетрясений из космоса (Novosti Kosmonavtik, No.11 2002)

     ちなみに2007年2月に来日したセルゲイ・アウデエフ宇宙飛行士に照会したところ、ミールに搭載していた地震予測のためのmonitoring equipmentとは、Ionozondだけでなく、エネルギー粒子観測装置やUVフラッシュ撮像装置を含むとのことである。
    Cosmonaut Sergei Avdeyev, who holds the record for the most time spent in space -- more than two-years -- says he is disappointed because there is important space research that could be conducted on Mir. For example, crewmembers say they witnessed atmospheric phenomena prior to the August 17th earthquake in Turkey, but that their monitoring equipment was too new and untested for them to predict an earthquake. (Voice of America, 30-Aug-1999)
    Source: Danilkin et al., Discussion paper: Macroscale ionospheric irregularities registered by the Mir onboard ionosonde, INTERNATIONAL JOURNAL OF GEOMAGNETISM AND AERONOMY, VOL. 5, 2004

    参考:Jason, Pulinets, Curiel and Sweeting, EARTHQUAKE FORECAST SCIENCE RESEARCH WITH A SMALL SATELLITE

  • エネルギー粒子観測装置電場計Langmuir Probeプラズマ・アナライザー磁力計


    DEMETER IDP (CNRS)

     2004年6月29日、フランス国立宇宙研究センターは、地震に伴う電磁気現象の観測を目的とした小型衛星DEMETERの打上げに成功した。DEMETERに搭載されたエネルギー粒子観測装置(IDP)は、2004年11月22日にニュージーランド近海で発生したマグニチュード7.3の2日前に震源近傍上空のElectron fluxが増加していたことを報告している。

    Parrot et al., Examples of unusual ionospheric observations made by the DEMETER satellite over seismic regions, Volume 31, Issues 4-9, Page 129-496 (2006)Physics and Chemistry of the Earth 31, 2006
    Recent Progress in Seismo Electromagnetics and Related Phenomena

    Edited by Masashi Hayakawa, Sergey Pulinets, Michel Parrot and Oleg A. Molchanov


     またDEMETERは、マグニチュード4.8以上の2628個の地震との統計的解析により、地震前にVLF帯の電波放射が観測されると報告している。


    This figure shows a drop in the intensity of waves measured by Demeter across a frequency range of 500 Hz to 1 kHz; the drop starts about 10 hrs before earthquakes and continues up to 2 hrs afterwards.
    Over the same timeframe, we see an increase in intensity at frequencies between 4 kHz and 10 kHz. A 3rd disturbance is recorded across the full range of frequencies about 24 hrs after quakes.

    Source: Demeter pulling out all the stops (CNES, 2006.5.11)

     しかしながらDEMETERのラングミールプローブは、電極汚染の影響を考慮しておらず、電子温度・密度のデータは信頼度は高いとはいい難い。地震の影響を検証するには、まず極めて良質な電離圏のモデルを構築する必要がある。そのためには信頼できるプラズマ計測プローブの搭載が必要不可欠であり、日本は多くの科学衛星で豊富な搭載実績と経験を有している。
     特に納得できる地震に伴う電子密度・温度の変動を示すためには、日本の優秀な電離圏研究者の協力が必要不可欠である。


    SEDA-AP Plasma Monitor (JAXA)

     きぼう第1期搭載が決定している宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)のプラズマ計測装置は、サンプリングレートと掃引周期の問題で、本分野の研究には利用できない。

    参考:Planetary and Space Science, Volume 54, Issue 5, Pages 411-558 (April 2006): First Results of the DEMETER Micro-Satellite Edited by Dr. Michel Parrot

  • LAZIO-Sirad

    宇宙ステーション搭載位置と装置外観 (INFN)

     LAZIO-SiRadは2005年2月に国際宇宙ステーションに届けられ、同年4月にイタリア人宇宙飛行士Roberto Vittoriによって観測のセットアップが行われた。本装置はNational Nuclear Physics Institute(INFN)のRoberto Battiston博士を中心として設計され、地震に伴う放射線帯粒子の観測を目的としている。
     同年9月に放射線医学総合研究所で開催された放射線モニタリングに関する国際ワークショップ:第10回WRMISS (Workshops on Radiation Monitoring for the International Space Station)での発表によれば、2枚のデータカードのうち1枚は軌道上で観測データを蓄積中とのことである。(このpdfの21ページ62ページには地震に伴う変動を観測しているようにみえる)
     ちなみにRoberto Battiston博士は、2006年1月5日に中国地震局地球物理研究所で開催された地震電磁衛星学術報告会に出席している。

    Source: Space station aims to spot seismic shocks (Nature, 2005.4.19)
    参考:Sgrigna et al., Ground rock deformation events and their possible effects in the near-Earth space (EGU 2005)

  • Arina

    ARINA instrument layout for charged particle burst observation and block-diagram of the spectrometer-telescope (INFN)

     INFNのグループは、地震に伴うエネルギー粒子の観測を目的としたArinaという装置を、2006年6月15日に打上げられたロシアの地球観測衛星Resurs-DK1に搭載している。Resurs-DK1には、宇宙線の観測を目的としたPamelaという大型のエネルギー粒子観測装置が搭載されている。
     ちなみにイタリアもEsperiaという地震電磁気観測衛星を計画している。

    参考: Sgrigna, Description and Testing of ESPERIA Instruments (ARINA and LAZIO-SIRAD) in Space (AGU Fall Meeting 2004)
       TELLUS. Ground Deformations and their Effects in the near-Earth Space (INFN)

  • VSPLESK EXPERIMENT

    装置外観 (Energia)

     VSPLESK EXPERIMENTは2006年9月に国際宇宙ステーション・ロシアモジュールへ搭載されたエネルギー粒子測定装置である。Research SupervisorはA.M.Galper博士。

  • OBSTANOVKA

    宇宙ステーション搭載位置と装置外観 (IKI)

     OBSTANOVKAは2007年に国際宇宙ステーション・ロシアモジュールへの搭載が予定されているプラズマ波及び電磁環境測定装置である。地震に伴うULF-VLF帯の観測を予定している。
     2006年6月にESTECで開催されたASIM Science Workshopの発表によれば、DEMETERの2号機ともいうべきTARANISという小型衛星と協力して地震に伴う発光現象の観測を行う模様。


    TARANIS (eoPoral)

    Source: Blecki and Rothkaehl, CURRENT SCIENTIFIC ACTIVITY ASSOCIATED WITH DEMETER AND TARANIS AND OBSTANOVKA PROJECTS AND ITS RELATION TO ASIM EXPERIMENT ON ISS, ASIM Topical Team Meeting, ESA/ESTEC 26-27 June 2006
  • (3) フライト実験の概要
     きぼう暴露部に搭載後、初期チェックアウトを経て観測運用を行う。(数年以上)

    (4) 打上げ時期に関する要求
     地球電磁環境モニター衛星(ELMOS)の打上げと同時期であれば理想的である。
    3. 技術実現性

    (1) 実験装置またはミッション機器の概略仕様
     各ミッション機器の概略仕様を以下に示す。
     寸法重量電力データレート備考
    エネルギー粒子観測装置400*300*300mm28kg48W10kbps未満LAZIO-Sirad参考値*
    プラズマ計測プローブ全長250mm数kg数W20kbps未満サイズのみSEDA-AP PLAM参考
    トップサイドサウンダーアンテナと電気回路部数十kg200W不明FMCW参考
    * DEMETER-IDPなら重量525g/電力895mW、Arinaなら6.6kg/9.5W
     以上の観測装置は全て宇宙における観測実績を有しており、容易に開発することが可能である(ステーションの電磁環境を考慮すると電場・磁場の測定は困難と思われる)。
     プラズマ計測プローブはSEDA-APへの搭載が決定しているが、地震に伴う電子密度・温度変化を測定するという観点で、電子温度プローブとインピーダンスプローブの搭載を候補とする。
     トップサイドサウンダーにはアンテナ展開が必要であるが、FMCWイオノゾンデという小型の物が存在するため、宇宙への適用可能性を調査する。(野崎、中緯度短波レーダー研究会、2003)

    (2) 設計要求フロー
     まずSEREXワーキンググループにて、過去及び現在進行中のミッションのレビューを行う。SEREXミッションとして搭載が有効と確認された機器についてミッション要求の調整を行う。

    (3) 各サブシステム・校正機器の技術的準備状況
     TRL9:SEREXは「今ある技術を利用して安価に」実現することが可能である。現時点でトップサイドサウンダーを除けば、コンパクトで電力消費の小さな機器である。

    (4) システム設計のマージン
     SEREXの搭載装置は既に多くの分野で開発がなされているため、システム設計フェーズでの検討結果の確度は高いと考えられる。

    (5) 検証計画
     ISS搭載予定の類似ミッション及び同じ時期に運用される衛星観測結果と相互検証を行う。

    (6) アコモデーションを逸脱する場合の対策
     搭載については以下のように分類することができるが、宇宙ステーションの搭載基準(展開構造物は1m程度)を満足できない場合は搭載を断念する。
    暴露部搭載可
  • エネルギー粒子観測装置
  • プラズマ計測プローブ(ステーション進行方向に展開)
  • トップサイドサウンダー(小型化できれば)
  • 展開ブームが必要
  • トップサイドサウンダー(小型化できなければ)
  •  従って現時点で搭載可能性の高いと断言できるのは、エネルギー粒子観測装置とプラズマ計測プローブである。参考までにSEDA-APの搭載機器構成を示す。(暴露部への搭載はこのような形態になると考える)


    SEDA-AP (JAXA)

    4. プログラム実現性

    (1) コスト
     観測装置の類似性より、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)の開発費(約20億)から判断すると、エネルギー粒子観測装置、プラズマ計測プローブ及びトップサイドサウンダーの全てでも数億円程度と予想される。既に観測実績のある機器を国際協力で採用することによりコスト削減が可能である。
     無論、ミッションレビューのみであれば、委員会開催と報告書作成程度の経費となる。

    (2) 開発スケジュール
     観測装置の類似性と規模より、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)と未満と考えられる(SEDA-APは設計から打上げまで10年かかっているが、シャトル計画の遅延によるものであり、計画開発期間は4年)。以下、採択された場合の最短スケジュール案を示す。(必要なリソースが確保された前提で)
     2007年度:SEREXワーキンググループによるミッションレビュー
     2008年度:搭載機器ミッション要求作成及び設計開始
     2009年度:開発開始
     2011年度:打上げ
    (3) 開発体制
     今回の公募の結果、SEREXと環境計測技術グループが提案するSEDA-2がともに採択されれば、SEREXワーキンググループによるミッションレビュー結果と得たうえで、環境計測技術グループがSEDA-2/SEREX開発を行うことが考えられる。(要調整)
     もしSEDA-2が採択されなければ、他の採択ミッションとの共同開発体制を検討する。
     参考までに宇宙利用推進本部の将来の利用推進ミッションの研究として、平成19年度は【   】千円配算されている。(SEREXの検討用に充てられるかは要調整)
     採択が決定すれば、宇宙科学研究本部日本宇宙放射線研究会、高エネルギー加速器研究機構の研究会「放射線検出器とその応用」及び放射線医学総合研究所等に広く参加を呼びかける。

    (4) 国際協力
     本ミッションの実現にあたっては国際協力、ロシア、フランス及びイタリアとの協力が考えられる。地震電磁気現象の国際コミュニティーである国際測地学・地球物理学連合(IUGG)の学際的作業委員会であるEMSEV(Electromagnetic Studies of Earthquakes and Volcanoes)の協力も期待できる。

     最後に繰り返しになるが、SEREXは「今ある技術を利用して安価に」実現することが可能である。
    参考資料

  • 地震の電離層における前兆現象 Ionospheric Precursors of Earthquakes
    Pulinets, Sergey., University of Mexico, Codigo, Mexico; Boyarchuk, Kirill., IZMIRAN, Moscow, Russia

     最近、話題になっている地震活動と電離層における現象との関係について解説されている。マグニチュードの大きな地震発生前の数日・数時間の地震活動地域で観測された地球周辺のプラズマの変異について説明されている。
     地震と電離層との相互作用が地球規模の電気回路現象として説明され、地震活動地域に現れる異常電界現象が地球から電離層への情報の伝播として示されている。地震活動の物理的なメカニズムが、さまざまな実験データに基づいて論じられており、近い将来に発生するであろう地震予知などへの応用の基礎的な成果として期待されている。
     地震活動の発生と電離層との関係について解説した有用な研究文献として、地震学分野の研究者や専門家の方々におすすめする。
    * Sergey Pulinets博士のページにも文献多数(Pulinets博士も昨年、中国地震局地震予測研究所に招待されている)

  • 地震の電離圏への影響 ─新しい研究分野─(小山孝一郎)
     今回のワークショップでは、地震に伴う電磁波を観測するために、米国のベンチャー企業が2003年に打上げた超小型衛星Quakesatが地震に伴う電磁波を検出した報告、昨年フランスが打上げた地震電磁気観測衛星Demeter の初期結果などが出てきました。現在イタリア、メキシコ、トルコでも地震に伴う現象を観測する衛星計画が議論されています。ロシアは2001年に世界に先駆けて小型衛星Kompassを打上げましたが、残念にもデータが取得できませんでした。日本でも約10年ほど前からでしょうか、旧宇宙開発事業団の児玉氏が一生懸命、日本こそ地震に伴う現象を研究するための衛星を上げるべきだと主張してきました。彼の先取性とは違い、私が保守的であったいうことでしょうか?外国に遅れたとはいえ、今、日本で小型衛星を計画し、勤勉で優秀と定評のある日本の研究者を組織すれば、きっと成果を出してくれるでしょう。
  • 地球電磁気的方法による地震予測の現状と展望(上田誠也)
     我々が短期予知の本命のひとつとしているのは電磁気的手法です。破壊発生の直前にしばしば見られる電磁現象を地震のときにも捉えられないかというのは常識的な発想ですが、現象自体は微弱なので信頼度の高い観測は困難でした。それが、近年の電子技術などの進展により急激に発展をとげ、現在ではロシア、ギリシャ、台湾、中国、アメリカ、インド、イタリア、旧東欧兼諸国などからは電磁的地震前兆現象を支持する多数の報告がなされ、「地震電磁気学」なる新学問分野が生まれました。わが国の研究者もなんとか最先端を走っています。地球物理学の世界最大の研究組織「国際測地学・地球物理学連合; International Union of Geodesy and Geophysics, IUGG」には2002 年に、「地震・火山に関する電磁気的研究:Electromagnetic Studies on Earthquakes and Volcanoes, EMSEV」作業グループが設立され、私が初代委員長を仰せつかりました。また、フランス・ウクライナ・アメリカなどは地震電磁気観測衛星さえ打ち上げました。台湾、メキシコ、トルコなど後発諸国ですらその研究が急ピッチで軌道に乗り始めています。これらの研究には、物理学者、電波科学者なども主導的役割を果たしています。残念ながらわが国では今まで繰り返し述べてきたような従来のしがらみにとらわれて、この面での国を挙げての研究は後発諸国にすら遅れています。何とか突破口を開かねばなりません。
  • 地震に伴う電磁気現象のいろいろ(早川正士)
     以上地震前兆電磁気現象を記述してきたが,かかる電磁気現象が(1)前兆性および(2)遠隔性(伝搬性)の理由から短期的地震予知に極めて有望なものと理解され よう。我々の研究を中心とした考察から、すでに地震の短期予知の観点からは(1)ULF放射と(2)VLF送信局電波による下部電離層擾乱が最も有望であることが世界的に認知されつつある。もちろん,観測的にも理論的にも解明すべき興味深い問題が多く,多くの努力が望まれることはいうまでもない。

    提案されている伝播メカニズム (Hayakawa lab.)

     学問的には地圏の効果が如何に大気圏や電離圏まで影響するかという問題が注目され、我々が提唱した「地圏・大気圏・電離圏結合」という言葉は我々ソサエティの合言葉となっている。図10 は我々が提唱する可能な結合機構をまとめたものである。現時点では、三つのチャンネルが考えられます; (1) Chemical channel, (2)acoustic channel と(3) electromagnetic channel である。(1)の化学チャンネルは地震の前に地下からのラドン放出等に大気の導電率の変化に伴う、大気電界の変調が電離層擾乱を引き起こすものである。(2)の音響チャンネルは大気振動(主としては大気重力波、大気音波)によるエネルギーの下部電離層への伝達によるもの。最後の(3)の電磁チャンネルは電磁波による結合で、地震前兆の電磁波(ULF 波等)による直接的電離層加熱・電離やULF 波が磁気圏へ侵入し内部放射体プロトンと相互作用し、電離圏へ粒子を降下させるなどするものである。特に,第一のchemical channel と,第二のacoustic channel についての考察が重要になると思われる。我々を含め世界各国にて精力的にこちら機構の追究が行われている。
  • 21 世紀の地球電磁気学
    (3)地震電磁気現象および火山活動のモニタリング
     この10年間において、長期にわたって安定した電磁場データが面的に取得できるようになった。また取得周波数の広帯域化が図られ、さまざまな電磁放射や電離層異常を捉える研究が精力的に進められた。その結果、地震と相関があるとされる電磁場変動に関する発表や論文報告が多くなされた。異常とされる個々の変動は、前兆的な変動も含まれている可能性はあるものの、周波数帯域、継続時間、振幅、先行時間などについて実に多様な形態を持っていて、それらが本当に地震に関連する現象であることを証明するまでには至っていない。これらについて、地震現象との因果関係の解明が急務である。
  • 地震予知研究の新展開(立花隆・私の読書日記からの抜粋)
     地震予知は、明らかに新段階を迎えており、広範多様な観測体制から得られるデータの積み上げをもう少しつづけると予知の原理的可能性が間もなく見えてきそうな気がする。
     いま注目されるのは、フランスが打ち上げる地震予知地球電磁場観測衛星(なぜ日本でできなかったのか)と、日本のアクティブ信号による地下監視プロジェクト(「アクロス」計画)だ。
  • 日仏自然災害ワークショップ(GeoHazards 2004)報告(小泉尚嗣)
     私は,東海地震を主な対象とした地下水観測による地震予知研究の話をしたが,フランス人からの質問は,2000年三宅島噴火の際の地下水変化に対するものが多かった.小山(1997)の指摘するように,フランス人の関心は,地震よりも専ら火山にあるようである.フランスは,本土(?)には活火山は皆無で,海外領土にのみ活火山があるにもかかわらず,一般の関心が高いのはなぜかを尋ねてみたが,フランス人研究者も「わからない」といっていた.この回答が得られたら,火山のみならず地震も含めた自然災害一般に対して一過性の関心しか持たない日本人の気質を変えられるかもしれないなどと考えた.
     また,通常興味を持っている,地震・火山分野以外の災害研究とその対策の話を聞けたのは大変新鮮であった.対象とする分野は違っても,考え方の枠組みや手法が身近なものである場合(それが明示されている場合),興味深く講演をきけた.
     懇親会等で面白かったのは,強烈なブッシュ米国大統領批判が聞けたことで(返す刀で「シラクも弱腰だ」などといっていた),痛快であると同時にさすがはフランス人だと思った.「米国何するものぞ」という気概は,研究に対する取り組み方にも表れていて,フランスでは,「米国が取り組んでいないこと」がひとつの有力なモチベーションになるとのことである.そして,米国でもフランスでも共通にあるのは,フロンティア精神であろう.「欧米がやっているから」が有力なモチベーションになりがちな我々が学ぶべき態度であると思った
  • フランスが電磁場観測衛星を打上げ(NISTEP科学技術トピックス)
     我が国の地震電磁気研究は、平成7年より旧科学技術庁の主導で、理化学研究所の「地震国際フロンティア研究」と旧宇宙開発事業団の「地震リモートセンシングフロンティア研究」が行われた。前者は2001年度で終了し、観測点等が各地の大学に引き継がれた。後者は2000年度で終了し、研究は中止となった。1999年の第2回日仏宇宙協力シンポジウムではフランスからDEMETER受信の協力要請があったが、予算上の問題で協力実現には至らなかった。
     地震と電磁場変化の関係を研究する上でデータ取得の機会が増大することは有意義であり、今回の打上げ成功をきっかけにして、地球観測衛星を利用した災害の予知・予測について再検討を行うことが望まれる。
  • 地震前電磁気異常、宇宙から解明 仏で人工衛星打ち上げへ(Spaceref)
     編集者コメント:ロシア、米国では衛星利用の地震予知で研究が進められており、米国では「地震予報」なる衛星利用地震情報提供の商業サービス計画も進んでいる。地震国である日本でも視点を変えた研究を受け入れる文化がほしいものである。
  • 第18回記者懇談会報告(日本地震学会ニュースレター vol.17 no.2)
     2005年5月22日午後6時30分より,2005年地球惑星科学合同大会が開催中の幕張国際会議場202会議室において,第18回記者懇談会が行われました.参加者は36名,うちマスコミ関係者(新聞社,通信社,テレビ局,出版社,他)は17名でした.(中略)
     次に,宇宙航空研究開発機構の児玉哲哉氏から「地震電磁気観測衛星の現状と展望―地震火山国の宇宙機関として実施すべき将来ミッションは何か?」と題して,昨年フランスが打ち上げたDEMETER衛星など,各国の衛星計画についてのレクチャーが行われました.地震前兆現象として電離層に異常が現れる可能性が高く,衛星を用いた異常の検出可能性について説明がありました.出席者からは,地表での観測網の高密度化には限度があるので,衛星の利用が一つの有効な選択肢である.地表でも観測が難しい現象を,衛星で見える可能性があるという段階で衛星計画の推進は賛同が得にくいのではないか.まず,観測されたとされる現象とその物理過程をサイエンスとして統括すべきではないかなど,活発な議論が続けられました.また,児玉氏からは,日本の衛星の開発技術を高め,製造と打ち上げコストを下げるためにも多数の衛星を継続して打ち上げることが重要であるとの考えが示されました.この後,会場を居酒屋に移し,学会員とマスコミ関係者の自己紹介と地震学その他の熱心な議論が午後11時近くまで続けられました.

    添付資料

  • Preseismic Lithosphere-Atmosphere-Ionosphere Coupling (EOS, Vol. 87, Num. 40, 417, 424, Oct. 3, 2006)
  • 電磁気学的手法による短期的地震前兆の観測的研究の現状(地震 59,69-85,2006)
  • 「火星探査より地震予知を」(アエロスペースクーリエ Vol. 3)
     「ロシアの宇宙飛行士が、地震の雲と考えられる銀色の雲を見たと、本に書いていましたが、宇宙飛行士には見えたが、観測装置では観測できていないのはどういうことでしょうか。」と、質問した。これに対するウトキン博士の答えはこうだった。
     地震予知というと、科学者は腰を引いてしまう。それは、予知が外れた場合のことを考えるからである。博士は、地震予知を行い、それが外れた科学者の悲劇を語った。しかし、それからどれだけの月日が経過し、新たな多くの発見と技術開発があったかも述べた。
     ISSは、15年間の運用期間があるのだから、地上のこれまでの研究成果と統合させた地震予知の研究をやるべきだ。「地震予知の研究をしないで、火星探査はないはずだ」。
     山中博士の問に、直接は答えていないが、科学者の考え方を述べることで答えにしたようである。予定の時間を10分ほどオーバーした熱演は、会場を大いに盛り上げた。

    簡単な技術ですごいことをするのがすごいんです。
    すごい技術ですごいことをするのは普通です。
    by: 半日庵

  • [宇宙ステーション利用計画ワークショップ第24回宇宙ステーション利用計画ワークショップ開催結果報告(速報) 議事録]