平成17年度日本大気電気学会学術研究賞
服部 克巳 会員
研究題目 「ULF電磁場データによる地殻変動監視に関する基礎研究」
推 薦 理 由 書
学術研究会選考委員会
地震や火山噴火等の地殻変動に先行して様々な電磁気現象が発生していることが明らかになりつつある。地殻変動を地殻内の破壊現象と捉え、その発生準備段階における電磁気現象を正確に把握し、その物理機構を統一的に解明することがその短期予知の観点から重要である。服部克巳会員は、地殻変動に伴うULF帯の電磁気現象の解明と短期予測に関する研究に精力的に取り組んでいる。主な研究成果は以下の通りである。
- 関東・東海地区を中心に国内外にULF帯の地球磁場、地電位差観測ネットワークを構築し、地震電磁気学用の稠密な、高精度の観測を世界で初めて実現した。
- 観測された電磁場データの特徴量(偏波解析、主成分解析、フラクタル解析等)に基づく信号弁別を行い、地殻変動に先行するULF帯の電磁気現象の存在を科学的に証明した。その結果、��0.01Hz帯が最も有効であること、�∧佛伐鮴呂両豺隋∪莵垰�間はM6級では約2−3週間であること、��2000年伊豆諸島群発地震では、西伊豆に配置された3点アレーの水平磁場成分を用いた主成分解析を行い、地震に関連する情報は第3主成分に含まれること、を発見した。
- ULF電磁場のポテンシャルの勾配を用いた方位測定法を開発した。2000年伊豆諸島群発地震について伊豆諸島と房総半島に設置した3点アレーの磁場データに適用した結果、両者の重なった方向に将来の震源があることがわかった。また、房総半島のアレーデータの地電位差データについて各観測点の地電位差勾配から方位測定をした結果、観測点近傍の直流電車、背景雑音の信号源が推定可能なことがわかった。
- 震央距離(R)とマグニチュード(M)の関係を経験的に導出した(0.025R<M−4.5, M>6)。国内観測点において、この経験式を満たす5つの地震全てにおいてULF帯の電磁場の異常が観測されていることがわかった。
- 信号の空間的な相関関係とWavelet変換を利用し、ULF帯電磁場データから最も強度の大きい広域的な地磁気脈動等に起因する信号の除去手法を開発した。その結果、これまでマスクされ確認できなかった変動の明瞭化に初めて成功した。またULF帯の電磁場変動の物理機構を解明するために不可欠な地震電磁気信号の波形同定へ大きく前進した。
以上のように、服部克巳会員の研究成果は新たな地震電磁気学という大気電気学の新分野の開拓に大きく貢献しており、日本大気電気学会学術研究賞に値するものとして、ここに推薦する。
平成17年度日本大気電気学会学術研究賞受賞にあたって
服部克巳(千葉大学海洋バイオシステム研究センター)
このたびは、「ULF電磁場データによる地殻変動監視に関する基礎研究」について栄えある日本大気電気学会学術研究賞をいただき大変光栄に存じます。まだよちよち歩きの地震電磁気学でこのような賞をいただき、栄誉ある賞を汚す事のないように気を引き締めて研究に邁進したいと思います。さて、私がULF帯の電磁場変動と地震との関連を研究し始めたのは、1995年の阪神大震災の後で、約10年前です。群馬高専の講師として着任してまもなくの頃で、電気通信大学の早川正士先生の学部学生であった近藤寛之君とインドネシア・ビアク島付近で発生した地震について地磁気データの解析をしたのが最初でした。早川先生らのグアム地震の解析結果と比較しながら、データ処理法について検討したことを覚えています。早川先生やスタンフォード大学のFraser-Smith教授らが相次いでULF磁場変動と地震の関係についてGRL誌に報告しており、私もこの解析を通じてULF帯の磁場変動を大地震の間には何かあると確信したのでした。それまでは、主に超高層のプラズマ波動の研究と信号・画像処理の研究に従事しており、私の研究対象を宇宙から地面の下へ180度転換させることになったのでした。
阪神大震災をうけて、科学技術庁(現在の文部科学省)が1996年に地震学以外のアプローチによる短期予測のプロジェクトとして地震フロンティア研究を立ち上げました。電磁気的なアプローチは上田誠也リーダーの理化学研究所地震国際フロンティア研究(直流から低周波を取扱い、VAN法の検証が主テーマ)および早川正士リーダーのNASDA地震リモートセンシングフロンティア研究(衛星と電離層監視による地震予知が主テーマ)の2つ立ち上がり、私は縁あって、1997年から理化学研究所地震国際フロンティア研究のULF磁場観測に携わることができました(NASDAのフロンティア研究との共同観測)。当時は観測装置も何もなく、ゼロからの出発で、磁力計の調査から始めたのでした。直感的には微弱な変動なので、センサの感度と設置場所の電磁環境が鍵になると思ったのでした。観測の準備をしている時に、鹿児島県北西部地震が発生しました。震源から約60kmのところに名古屋大学STE研究所の3成分磁力計のデータがあることがわかり、その責任者である湯元清文先生(現在九州大学教授)から、データを入手し解析させていただきました。きれいに異常変動が抽出され、自前の観測点設置準備作業に力が入ったことを今のことのように覚えています。また、Fraser-Smith先生とも議論する機会があり、勇気づけられるコメントをいただいたのでした。
検討を重ねた結果、国内観測は南関東の地震と東海地震をターゲットとし、ロシア製とウクライナ製の高感度の3成分磁力計を房総半島、伊豆半島、東海地方に設置することにしました。電磁環境測定や設置作業は理研の山口透、織原義明、高橋一郎研究員ら、電気通信大学の大学院生の伊東哲也、秋永和計君らと行いました。観測点は山の中で、電力線と電話線の終点付近が普通でした。場所によっては、新たに電柱を数本たててもらい、数百m延長してもらった箇所もあります。猿、鹿、野兎、猪などこれまで見たことのない野生動物にも会うことができました。初めのうちは思うようにデータもとれず、観測機器の保守作業ばかりやっていました。第1世代はMSDOSによるシステムで、磁場3成分のみの観測でした。そこで、思い切ってシステムをLINUXベースに改良することにしました(第2世代電磁場6成分観測)。このときも失敗の連続でした。メモリの設定を間違え、全くデータがとれない時期もありました。上田先生や早川先生らに会うのが辛かった時期もありました。安定ではなかったのですが、データは取れていたシステムを改悪した訳ですから・・・・・。両先生ともよく辛抱強く見守ってくれたと思います(本当は腑が煮えくりかえっていたと思います)。2000年よりようやく、世界最高レベルのデータが無人でかつ長期にわたって連続する記録できるようになりました。まるでシステムの完成を待ってくれてたかのように、2000年6月から三宅島近海で群発地震が始まりました。M6を超える地震が5回も発生するという大規模な地震活動で、貴重なデータを蓄積できました。被災者の方には怒られてしまいますが、幸運でした。理研時代は観測点のお守りで手一杯の状況でした。2001年に現在の千葉大学へ移動しましたので、観測データは大学の研究室に転送されています。理研/NASDAフロンティア研究の財産です。最大限の恩返しをしなければなりません。その意味でも今回の受賞は、私にとっての最大の喜びで、理研/NASDAフロンティア研究および千葉大学の研究をサポートしてくれる(た)諸先生、同僚、学生のみなさんとの共同成果だと思っています。
現在、地殻変動の準備過程において出現する微弱な電磁気現象を捉えて、その短期予測をするという研究に取り組んでいます。精密な計測と高度な信号弁別技術を駆使して、地殻活動と関連する信号の時空間的分布の有様を正確に把握することによって、地殻の状態を監視し、究極的には地殻活動の予測を行うこと(いわば地象天気予報)を目指しています。学問的には、地殻活動という力学的破壊活動の準備過程を電磁気学的に把握する"地殻活動電磁気学(地震電磁気学)"という新しい分野の創設になるでしょうか(地殻内放電現象かもしれません!!)。また、地殻活動に関連する現象は大気圏や電離圏まで到達しており、地圏−大気圏−電離圏の結合という新たな概念が生まれ、地殻変動エネルギーの超高層域への輸送過程という知見も得られるかもしれません。これらの研究を通して、微力ながら大気電気学の発展に寄与したいと考えています。
最後にこれまでの研究をご支援くださった大気電気学会会員の皆様をはじめとする多くの方々、またこの受賞にお骨折りいただいた先生方に心からお礼申し上げます。
Source: 大気電気研究 No.67 2005