人工衛星のデータ解析を
続ける宇宙開発事業団


 地震の前兆現象として地中から放射される電磁波を観測しているのは、地上のアンテナに限らない。旧ソ連時代のロシアで、地震電磁波の観測に活躍したのは人工衛星。その旧ソ連の衛星が残した膨大なデータを日本の宇宙開発事業団(NASDA)が引き継いでいる。衛星による地震予知の可能性について、地球観測データ解析研究センターの児玉哲哉さんに聞いた。


 衛星で観測できるのは、地中から放射される電磁波そのものと、上空の電離層の異常。 衛星のいいところは、それらを全地球規模で観測できるところです。
 被害が大きい巨大地震は、日本では、数十年に一度かもしれませんが、世界ではどこかで毎年起こってるわけですね。 観測の回数が上がれば、地震と電磁波の相関関係の研究が飛躍的に進むでしょう。
 担当者の希望的観測かもしれませんが、それらをリアルタイムで解析できれば、将来の地震予知につながっていくかもしれません。
 NASDAにある人工衛星の構想は「ELMOS」というもの。私個人の考えですが、実現に必要な金額は、計画段階の小型衛星を改修することで80〜90億円程度で済むと思います。
 まず、この小型の観測衛星を上げたい。そうして、2〜3年にわたって、全地球から基礎的な観測データを収集する。その後、複数の衛星による本格的な観測体制を作りたい。
 米国の地球観測は、オゾンホールや地球温暖化などが進んでいる分野ですが、日本は独自に電磁波観測をやるべき。「危険な地震情報」を発信できる意味は大きい。
 旧ソ連のデータの解析は、96年度から5か年計画で始まった「地震リモートセンシングフロンティア研究」とリンクしている。 解析の結果、地震の多い地域の電離層では、なんらかの異常が起きていることがはっきりしました。
 「地震と電磁波」と聞くと、拒否反応を示す人もいます。旧来の地震学者には、「予知はできない」と明言する人も出ている。 しかし、未知の現象だからこそ、そこに科学のメスを入れる意味があるのではないでしょうか。 フランスでも2002年に、地震電磁気観測衛星を打ち上げる計画があると聞いています。
 そうはいっても、いまは、衛星を持っていませんから、旧ソ連のデータ解析のほかに、地上でできるVLF波を利用した電離層異常の観測などを行っています。 観測網の構築を終え、日本全国をカバーしたデータの収集が可能になりました。どんな結果がでるか、それも楽しみです。

* 本記事は週刊読売の許諾に基づき掲載するものです。