地球科学は今、
何をなすべきか

上田誠也

東海大学教授、テキサスA&M大学教授/うえだ・せいや
 「阪神大震災」は、大きな人命損失と都市破壊をもたらした。政府当局、耐震工学、消防など多くの関係者は、犠牲者や現場で死力を尽くした人々に対して大きな責任を痛感していることだろう。
 この現実は、われわれ地球科学者にも重い問いを投げかけた。
 地震は予知されたか。東海地震以外は予知体制はほとんど皆無という現実に、それではならぬと声を大にしてきたか。関東大震災にも耐える設計を進めた工学、都市開発や災害予想担当者に、直下型地震の脅威がもっと大きいだろうことを満足に伝えてきたか。そもそも地震予知研究は健全な科学として進められてきただろうか。社会が耳を傾ける発言ができるほど成果をあげてきただろうか。
 これはまさに私自身の反省であり、今だから言えることである。しかし「地球科学が今、なすべきこと」への指針にはなるのではないだろうか。

 私は今、オーストラリアで国際地質科学連合の理事会に出席しているが、奇しくも討論の主題は「地球科学は今、何をなすべきか」である。地球に人類生存の危機が迫っていることを、一番よく知っているのは、地球科学者ではないか。危機回避のための基礎研究を進め、その成果を広く社会に伝え、施策に生かすのはわれわれの務めではないか。
 優れた成果を生むために、ただちに社会的利益に還元できない研究が必要なことは言を俟たない。しかし、地震であれ環境であれ、地学現象にかかわる問題に関して、その解答に責任を負うべきは地球科学者以外にはありえない。
 今回の地震発生後、全国の研究者がデータ解析、観測、調査などにただちに出動した様を、彼らの間の電子メールで知り、感銘を受けた。無力感を排して、断固として粉骨砕身しようではないか。
Source: 科学朝日緊急増刊「地震科学最前線」(1995.3)
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