日仏宇宙協力におけるDEMETER衛星観測への提言

日仏宇宙協力におけるDEMETER衛星観測への提言


平成11年12月3日
地球科学技術フォーラム/地球観測委員会
地球電磁気サイエンスチーム(主査:濱野洋三東京大学大学院教授)

1.はじめに

 NASDA-CNES協力で地球電磁気観測を推進し、地球環境変動及び災害監視に役立て、固体地球科学の推進に資することを目的として、フランスCNRSのParrotらが推進しているDEMETER計画への協力とわが国の貢献の方策を提案したい。
 DEMETERは2002年に打ち上げを予定している小型地球電磁気観測専用衛星であり、電場3成分・磁場3成分をグローバルに観測し、日本上空には毎日飛来、およそ2〜3年間の運用を予定している。
 大容量のデータレコーダーを搭載しないDEMETERは、地震の頻発地帯であるギリシャ、カリフォルニア及び日本を重点観測地域に定めている。故にミッションライフ期間中にできるだけ多くのデータを取得することがプロジェクト成果の是非に繋がる。
 我が国においてDEMETERデータを受信することは、平成8年度より開始した地震総合フロンティア研究において、NASDAや理化学研究所が構築した地上電磁気観測ネットワークとの同期観測は極めて有意義である。

地震総合フロンティア研究
アプローチ 研究対象 担当機関 研究名称
新手法に関わる研究 地電流や電磁界等の
前兆現象の基礎研究
理化学研究所 地震国際
フロンティア研究
衛星データを活用し
た地殻変動観測
宇宙開発事業団 地震リモートセンシング
フロンティア研究
新観測研究 地層深部の観測研究 動力炉・核燃料開発
事業団
陸域地下構造
フロンティア研究
海底ステーションに
よる観測研究
海洋科学技術センター 海底地下構造
フロンティア研究
新地震防災研究 リスク評価手法によ
る防災対応研究
日本原子力研究所 耐震安全・防災
フロンティア研究

 兵庫県南部地震以後の観測網の発展で、わが国は地震に伴う電磁気観測において世界的な先進国となっている。この地上観測網とDEMETERの衛星観測を組み合わせることで、全地球規模の地殻変動とそのメカニズム解明に資する可能性が高まっている。これは、国際貢献において、わが国の指導的立場を強化する点でも必須と考えられる。

2.日本側の電磁気解析体制

(1) 地電流:
 理化学研究所・国際地震フロンティア研究では、日本国内での地電流(直流電流)計測を実施している(VAN法)。
 VAN 法による地電流観測が従来の地電流観測と大きく異なる点は、 ノイズ除去のために多大の努力を払った事である。地電流観測に含まれるノイズとシグナルを区別するためには、同一地点で直交方向に最低2本ずつ (合計4本) の長さ 30〜200m オーダーの測線と、最低2本の長さ数 km に達する測線(長基線)が必要となる。これによってはじめて電極の不安定性や近傍で発生したノイズ、降雨などの影響を除去することができる。換言すればVAN 法とは非常に組織的にノイズ対策を行った地電流観測法と定義できる。


 更に海外においては、インドネシア科学研究所、バンドン工科大学、ロシア科学アカデミーなどの研究者と協力して、人工ノイズが極めて少なく、地震活動が活発なリワ、スマトラ (インドネシア)及びペトロパヴロフスク、カムチャッカ (ロシア)での観測を行っている。

(2)ULF放射:
 理研/地震国際フロンティア研究とNASDA/地震リモートセンシングフロンティア研究の共同で、マグニチュード6〜7の大規模の地震に対して有効な観測項目であり、(1)伊豆、(2)千葉、(3)柿岡、(4)秩父、(5)松代の関東ネットワークが稼動している。特に、(1)伊豆及び(2)千葉地区では数カ所(3〜5点、距離間隔5‐10km)においては高感度ULFセンサー(トーション型)を設置し、その差分を取る事(微分型ULFアレイという)により地震ULF波に対する感度を数10dB上げる事が出来る。その他の三観測点はインダクション型の磁力計を用いている。観測は1997年11月より続けられている。更に、これらの5つの観測サイトはほぼ60-70km間隔にて設置されているが、これは理論計算よりマグニチュード7にて100km、マグニチュード6にて60-70kmが感受域と考えられることに基づいている。更に,理研グループは日本国内に数カ所のULF観測サイトを予定している。


(3)VLF放射:
 岐阜県中津川観測点においてVLF帯の特定の4周波数に対して磁界3成分の強度(パルス)をモニターしている。各周波数に対して水平磁界2成分の位相をモニタし、直線偏波の時のみに方位を出すシステムを採用している。

(4)松代でのAE、ULF総合観測:
 松代地震観測所では地殻変動、地球化学観測を行っており、地震学との橋渡しとしてアコースティック放射(Acoustic Emission)とULF放射観測を昨年2月より継続している。AEは岩石微少破壊の良い指標であり、又、ULF放射の発生機構として我々はマイクロフラクチュアリングを提案しており、松代での総合観測は有意義である。

 次に、能動観測について述べる。

(1)VLF送信局電波を用いた電波サウンディング
 国内をカバーするネットワークとして、(1)調布及び(2)春日井に二つの拠点を設置し、すでに2年以上のデータが蓄積している。各地点では5局程度までのVLF送信局が受信できるシステムを開発しており、二拠点でも全国をカバーすることが出来る。対馬オメガ局が停波するまでのデータでは伊豆群発地震に伴ったVLF伝搬異常が相関して発生している。更に、例えば、春日井でのオーストラリアNWC局の伝搬異常と東海地方との地震との相関を調べた結果、比較的浅い地震に対しては電離層擾乱が出ている。

電離層擾乱観測の原理            阪神大震災のVLF波伝搬異常


 調布(2月1日運用開始)と名古屋(1月1日運用開始)にオメガVLF受信システムを設置し国内観測ネットワークを構築した。その結果、1997年3月の伊豆群発地震、東京の地震の電離層異常を観測することに成功した。
 

1997年3月の地震とVLF位相データ



(2)LF(JG2AS)受信ネットワーク
 40kHz標準電波は本年6月より出力も増強された(1kW→10kW)が、この標準電波を用いた関東地区の地震を対象とする。関東ローカルネットワークを構築した。観測点としては、(1)調布、(2)千葉、(3)清水、(4)高知、(5)名古屋、(6)舞鶴、(7)北海道母子里である。VLF同様に振幅と位相の連続観測が行われている。


DEMETERデータ受信と解析

 地震電磁気現象の研究分野では1996年に開始された科学技術庁主導の地震総合フロンティア計画の成果として、日本国内での観測体制が著しく整備され、順調に観測が続けられ、又、有意義なデータも出始めている状況である。
 まず、受動観測の分野では、いろいろな周波数での観測(直流からHFまで)が行われている。例えば、直流での地震流測定(VAN法)の観測が関東、中部地区を中心に30〜40点設置されている。更に、地震の短期予知に有効と考えられるULF帯(10-3Hz〜10Hz)では関東を中心に5〜6点の観測サイトから成るULFネットワークが構築されて、稼動している。そのうちの伊豆及び千葉地帯では近接した(間隔5-10km)数点(3点前後)での差分を取る微分型アレイという新しい概念の観測系が稼動している。更に、高周波のELF帯、VLF帯、LF帯の観測も充実しつつある。ELF帯の特定の周波数(223Hz)での高感度観測が東海地方を中心に続けられ、又、関東の5〜6点でのVLF帯の波形時間差から発生位置を同定するシステム、更に、直流ループアンテナを用いた同定システムを用いるグループ、LFパルスを数えるグループ、高周波での電界変動をモニターするなどある。
 次に、能動実験のグループとしては、VLF/LF送信局電波の電離層・大地導波管伝搬を用いる手法にて、地震に伴なう電離層(下部)擾乱を受信する方法を提案し、日本国内をカバーするネットワークを構築し、地震に伴なう電離層擾乱の観測に成功している。更に、増出力されたJG2AS(40kHz)を用いた関東ローカルネットワークも稼動し始めている。更に、放送局を用いた散乱波の受信による手法も提案され、多くの成果を上げている。更に、電離層のプラズマ擾乱をモニターする方法としてGPSも国内に整備されて来ている。
 以上述べたように、NASDAフロンティア、理研フロンティアを中心に、その他の機関の多くの努力により、現在の日本での地上観測体制は著しく整備されつつある。地下の情報を目指す地上観測、地震に伴なう大気中や電離層内での擾乱をモニターするシステムが完備されているのは、世界的に見ても日本だけと言える。この様な状況下においてDEMETERが日本上空を飛翔することが想定される。学問的には、地殻-大気-電離層の結合機構が主たるテーマとなる。勿論、地上での総合的な、しかも実時間に近い観測網が整備される状況では、前述した地殻-大気-電離層結合でも地上観測が主たる重要性を示す。しかし、上記結合の総合的解明には衛星との同期観測では不可欠である。地上観測が充分なレベルに達している事を考えると、仏国のツールーズにて観測データをダウンロードする状況ではサイエンスにならず、日本国内での観測データの取得が不可欠であり、このテレメータ受信により、地上・衛星同期観測がサイエンスとなる事が出来る。

3.DEMETERデータ受信と解析・評価プログラムへの要望

 DEMETERではプラズマ、波動(広い周波数にわたって)を観測することが予定されている。国内でのテレメータ受信により、高度な信号解析を可能とする衛星観測データ解析家を養成する事も重要である。例えば、積分電子密度(Total electron content)から三次元(ないし二次元)の電離層電子密度分布の導出、或いは電磁界多成分計測から電波の伝搬方向を決定する(方位測定という)など高度な信号解析を開発する事が不可欠である。これらは、従来の実績や経験から、電気通信大学とNASDAとの共同研究にて可能となろう。
 衛星観測データの地上へのテレメータ後、各種観測量の連続観測モニターとともに、前述したような高度な信号処理を駆使した解析を行うことにより、ほぼ実時間にて観測データをモニター出来る地上観測データとの比較検討は大きな科学的貢献が期待できる。例えば、衛星上でのプラズマ密度測定や積分電子密度観測から導出される電離層電子密度分布は、日本国内の広い領域でのVLF/LF送信局電波観測による下部電離層擾乱と比較され、電離層擾乱の空間的分布や時間的ダイナミクスを調べる事が出来る。波動についても同様の事が調査できる。
 地震リモートセンシングフロンティアの枠組を発展的に改組して、地上観測系と組み合わせたDEMETER観測データの責任ある解析で日仏協力に著しく貢献できよう。

 DEMETERのデータ伝送はXバンド(もしくはSバンド)を使用するため、鳩山(EOC)、及び熊本(TRIC)での受信が可能で、信号復調システムの機能付加及び改修が必要となる。
 コスト低減という観点では、市販の小型受信処理設備を購入することも考えられる。

4.わが国の地球電磁気等衛星観測による固体地球科学振興への要望

 これまでの地球環境観測では、電磁場環境という観点からの観測は行わ れておらず、地球システム科学の観点から可及的速やかなる観測が必要である。また、地球磁場変動機構の解明は、固体地球科学最大の課題の一つ であり、我が国の国際的貢献が可能である。

 衛星による地球電磁気観測という観点では、

[地球電磁環境モニター]
 現在地球磁場は減少期にあり、特に南米では年0.1〜0.2%と著しく、こ のままでは数百年程度で磁場が消失する計算になる。実際、この領域は多 量の高エネルギー粒子の降下が確認されており、衛星のシングルイベント、異常な白内障及び皮膚ガン発生の原因となっている。
[固体地球科学のための地球磁場観測]
 地球磁場の全球観測は1980年代にNASAがMAGSATによって実施したが、本 ミッションの継続必要性についてはIAGA(国際地球電磁気超高層物理学会) でも議論されており、ようやく1999年にOerstedの打ち上げられたものの、その後の観測計画は未定である。地球磁場の短周期変動は10年程度といわれており、継続的な観測が望まれている。
[地震電磁気現象の解明]
 近年、地震の直前に発生する電磁気現象が注目されており、ギリシャで は 地震予知手法(VAN法)として地上計測データがほぼ実用化されている。
 衛星による観測では、1980年代半ばより地震に伴う電離層プラズマ観測データの研究が旧ソ連、フランス、アメリカ等で進展してきた。ロシアのArsenal Design Bureauでは地震電磁気観測を目的としたPredvestnikとよばれる小型衛星計画が存在するものの、財政上の問題で実現は困難と思われるが、ようやくCNESがDEMETERの打ち上げを決定した。

 また、地殻内の応力変化,温度変化,流体移動などに伴う地磁気変化の 検出や地殻比抵抗構造の調査には,基準となる観測点における長期的に安 定した地磁気観測データの取得が不可欠である。このような地域は、世界 的にも地震国・日本をおいてあらず、宇宙開発技術を国民に還元する観点 においても、地球電磁気観測ミッションの実施は意義深いものとなるであ ろう。
 なお、将来的には夜間赤外観測による固体地球変動解明も必須である。夜間の赤外線による活断層等の熱的変動のモニタリングは、EORCのTronin研究員の成果によっても興味深く、又、米国Terra衛星(EOS-AM1)に搭載されるASTERとMODISセンサによる観測も来年には開始されると期待される。これは、数十度程度対象の熱赤外バンドと高温対象の短波長赤外バンドの両方を搭載している。災害は昼間のみ発生するものではなく、夜間の熱的活動のモニタリングや都市域の熱環境についての観測にも夜間赤外観測が必要である。又、地殻熱流量変動を長期にわたり全球的に毎日観測した例はなく、衛星観測の蓄積によって、地球の熱的変動の解明に新しい信頼性のあるモデルを導入できると期待されよう。我が国でも高分解能の赤外衛星観測とその責任体制をプログラム化する必要があり、これは日仏協力ばかりでなく、我が国が主導する全世界との協力につながるだろう。このような観測により、地震断層活動や火山変動等の災害監視に直結するだけでなく、プレート潜り込みによる摩擦熱発生量推定の矛盾等を解明して、固体地球の長期的変動を評価するために不可欠な新しい研究分野を切り開くことにつながることも期待できる。

謝辞:図の一部は理化学研究所・地震国際フロンティア研究のサイトより流用させていただきました。ありがとうございます。

[DEMETER]