= ナマズと地震との関係 =  

 

 

 

 

 

 「なまずが暴れると地震が起こる」と昔から言われていますが本当でしょうか?

 

  最近動物の異常行動と地震との間に関連があるとの研究が進んできました.1995年の阪神大震災に関係して、動物や植物、電化製品などの異常現象(宏観(こうかん)異常現象の可能性有り)が数多く報告されました。そして、これらの異常現象は地震活動に伴う電磁気的な異常変化が関与している可能性があるとして注目され始めました。

 

 


 

ナマズと地震との関係  

 

  犬やカラスやミミズなど、様々な動物の異常行動が世界各国で報告されている中で、日本では「地中の巨大ナマズが怒れば地面が揺れる」、古くからナマズと地震との関係には因縁ようなものがあります。鯰と地震の俗信が生まれたのは江戸時代の初期頃、人口の多い江戸で地震の被害が大きくなるとともに、ナマズの不思議な行動と地震との関係に関する言い伝えが生まれたようです。 江戸時代末期には世間一般に信じられていたようで、現在でもその伝説に基づく民話が残されています。

 

 とくに、安政2年(1855年)の安政江戸地震の直後には、鯰をモチーフにした錦絵が出まわりました。これは鯰絵(東京大学地震研究所図書室所蔵と呼ばれ、鹿島大明神が「要(かなめ)石」で大ナマズを押さえている絵などがあります。 鹿島の神が、大地に要石を打ちつけて、大鯰または大蛇の首を押さえこんでおり、鹿島の神が時折留守をしたり、気をゆるませたりすると、大地震になるという言い伝えが、鹿島の要石と鯰の関係で表現されるなどしています。 茨城県鹿島神宮には今でも、「要石」という石があり、鯰の民芸品が観光用に売られているようです。



  安政江戸地震の状況を書いた安政見聞誌には次のような記事が書かれています。 「本所永倉町に篠崎某という人がいる。魚を取ることが好きで、毎晩川へ出かけていた。二日(地震当日)の夜も数珠子という仕掛けでウナギを取ろうとしたが、鯰がひどく騒いでいるためにウナギは逃げてしまって一つも取れぬ。しばらくして鯰を三匹釣り上げた。さて、今夜はなぜこんなに鯰があばれるかしら、鯰の騒ぐ時は地震があると聞いている。万一大地震があったら大変だと、急いで帰宅して家財を庭に持ち出したので、これを見た妻は変な事をなさると言って笑ったが、果たして大地震があって、家は損じたが家財は無事だった。隣家の人も漁が好きで、その晩も川に出掛けて鯰のあばれるのを見たが、気にもとめず釣りを続けている間に大地震が起こり、驚いて家に帰って見ると、家も土蔵もつぶれ、家財も全部砕けていたという。」 安政江戸地震の3〜4時間前に地震を予知した話です。

 さて、地震と鯰の関係、一体どんな関係があるのでしょうか?? 

 

 


 

科学的な研究  

 

 

 大正12年(1923年)の関東地震後に、青森県の東北大学付属浅虫臨海実験所において畑井新喜司博士らが科学的なナマズと地震との関係に関する研究を試みました。水槽に飼育されたナマズに対し、ガラスをノックしたときの反応の敏感さを観察しました。その結果、80%の確からしさで数時間以内に地震を感じたと報告されました。 また、地面に微弱に流れている地電流も同時に計測した結果、地電流にV字の変化が現れたときにナマズが反応しているとも報告しています。

 

 

 

東北大学付属・浅虫臨海実験所(2001.10撮影:野田)

 

 

 

 

東京都水産試験場においてナマズと地震との関係に関する研究1976年4月から1992年3月までの16年間行われました。もちろん、俗信から始まったわけでなく、畑井博士らの研究成果も含め、文献調査、聞き取り調査から慎重にナマズを選定しています。電気的に敏感であることも考慮されました。試験場の広い敷地内の静かな場所のプレハブ小屋内に3台の水槽を設置しナマズが飼育されました。 公害用の振動計を水槽内部に設置し、24時間連続でナマズの暴れ程度を振動として記録を行いました。 1978年から1992年までのナマズの異常行動と東京都での震度3以上の地震91例のうち、実験が欠測となった4例を除いた87例に対して、明らかに10日前に異常行動が見られたものが27例あり、単純に打率に直すと3割1分であったと報告されています。

 

 

 

それでは、なぜ地震の前にナマズが騒ぐのか?に触れてみましょう。

 

 

一般的に動物を刺激する要因は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、温度覚、痛覚、振動覚、平衡覚、電気覚などの感覚を刺激すると考えられます。これらを刺激する現象が地震に先行して発生していることが考えられますが、いまのところそれらの現象に関しては明確に示されるに至っていません。しかし、情報の少ない中において、現在、動物を刺激する要因としての最有力候補は、帯電エアロゾルとパルス状の電界変動などが考えられており、科学的な研究が始められています。もちろん様々な要因が複合して刺激を与えている可能性も考えられています。

 

 

 

 


 

電気に敏感なナマズ  

 

 宮城県立看護大学の浅野教授はナマズの電気感覚に関する研究を神経細胞サイズから行いました。 ナマズはコイなど他の魚種にはない水中の微弱な電位差を感じる能力があり、その感覚の鋭さは人間やコイなどが感じる能力の100万倍に近い0.05μV/cm付近で、特に1Hz〜30Hz程度の低周波に敏感であると報告しました。この感覚の受容器は頭部を中心にナマズの表皮全体に分布する小孔器です。たとえば、琵琶湖のような広い湖に乾電池が1個投げ込まれたとすると、そのことを数キロメートル先で感知できる能力とであるようです。

 

 

 

ナマズの電気感覚に関する実験装置(浅野,1985)

 

 

 

 このように、ナマズは電気に非常に敏感であることから、実際に地震に関係する電気的な変化(電磁波)を観測している防災科学技術研究所の藤縄博士らが、電磁波の記録と東京都水産試験場のナマズの行動量との対比を試みました。その結果、地中の電気的な変化(パルス状の電界変化)が激しい時にナマズの行動が活発という可能性があることが解ってきたようです。特に1992年2月2日の東京湾で発生したM5.9の地震の一週間程前に電磁波のパルス数とナマズの行動量の増加が認められ、地震との関係が疑われています。  

 

 

 

地中電界変動量とナマズの行動量(藤縄・高橋,1994)

 

 

 

 

 


 

ナマズよりウナギが電気的に敏感?  

 

 大阪大学の池谷教授は地震に先行するナマズの異常行動などの動物異常行動は電気的なシグナルが関係しているのではないかとの視点から様々な研究や実験を行っています。そのうち、ナマズとウナギに対しても電気的な反応に関する実験を行いました。 この結果によると、ウナギは0.5V/mの電場強度で騒ぐが、ナマズは5V/mの強度まで騒がなかったとして、ウナギの方が電気的に敏感ではないだろうかと指摘しています。 前述の「安政見聞誌」には、ウナギを釣りにいったが、ナマズが騒いでいたことが書かれていることから、これはいち早くウナギが地震に関係する微弱な電気的シグナルを感知して姿を隠し、遅れて大暴れしていたナマズが釣られたのではないかとの推測ができるとしています。

 

 

 


 

 

おわりに

 

 

 果たして、ナマズを筆頭として動物たちは地震の前に騒ぐのでしょうか? 今のところ、言い伝えを否定するものは何もありません。 日常のアクアリウムで大切に飼育されている魚たち、特にナマズたちは地震の前に騒ぐかもしれません。

 

 

 

 

 


(参考文献:月刊アクアライフ,No.259,2001)


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